だと思っています。
ここ数年、リスクマネジメントの重要性が叫ばれました。最近おそらくリスクマネジメント室が設置された会社も多かったのではないでしょうか。
列車が脱線する可能性があるなら、スピードがそれ以上出さないべきでしょうし、想像しうる震度の
地震で倒壊する恐れがあるなら、
マンションを建てないべきでしょうし。JR西日本も、最近話題のヒューザーもリスクマネジメントの観点が欠けていましたよね。その代償は大きすぎます。
会社の経営陣は利益を最大化するために経営をしていますが、一方で、リスクを最小化するためにも経営しているとも言えます。最小化しても起こりうる惨事に対しては、各種
保険をかけるのですよね。
株式市場でも同じです。
投資をする時はリスク分散をしますし、買収をする時はもっとも確実な方法で買収します。リスクの最小化、それは非常に重要なことです。
先週、日清紡が新日本無線に対するTOB価格を当初の840円から880円に引き上げました。村上ファンドが出してきた900円のTOBに対抗するためです。
当初、日清紡経営陣は「マネーゲームには加担しない」と言って、840円のTOB価格を引き上げない意向でしたが、さすがにそれではまずいということで880円に引き上げたわけですね。もう一度おさらいですが、新日本無線の株式の半分は親会社の日本無線が持っています。したがって、日本無線さえ840円でTOBに応じれば、日清紡としてはTOBが成功なわけです。
ただ、1株60円も損するとさすがに日本無線の株主が黙っていません。「みすみすと
儲かる機会を逃しやがってー!」と言って、株主代表訴訟に遭う可能性があります。したがって、日清紡としても、そして、日本無線としてもTOB価格を引き上げないわけにはいきませんでした。それゆえに今回880円に引き上げたのですが、どうして901円にしなかったのか、不思議でなりません。
880円という価格から聞こえてくるのは
「村上ファンドには絶対に屈しない!」
という強い思いです。つまり、村上ファンドに負けた、村上ファンドの言いなりになったという形にだけは絶対にしたくないのですよね、日清紡としては。
その姿勢、悪くないと思います。経営陣としてはやはり強くあって欲しいと思っています。ただ、880円でもまだリスクは残るのです。もし、日本無線が880円でTOBに応じた場合、1株あたり20円損していますので、やはり日本無線株主が訴訟を起こす可能性はあります。日本無線が880円で応じます、と発表して、訴訟が起こり、その結果、日本無線が880円でのTOB応募を撤回すると、日清紡にしてみると、また振り出しに戻ります。
もちろんこれは最悪ケースです。ただ、可能性としては依然残っているのです。
もし、TOB価格を901円に上げていれば、上記のような可能性は圧倒的に少ないです。もちろん村上ファンドが902円に上げてくる可能性もありますが、それでも、まずは901円にして、上記のようなリスクを最小化するのが経営陣の使命たるべきではないでしょうか。
日清紡という会社、ホリエモンや
楽天みたいに、企業買収を日常茶飯事的にやっている会社ではありません。ですので、今回の新日本無線の買収に関しては事前に相当内部でも議論したと想像できます。それは、売却主である、日本無線も同じです。おそらく事務方が取締役会に出す資料を徹夜で作成し、そして、シナジー効果の
シミュレーションも何度もやったと思います。
そして、いざ取締役会を通った際は、「よーし、これから日清紡と新日本無線でこういう協業をやっていこう!」とか、「こんなシナジーがあるぞ!」とそれはそれは興奮していたはずです。一日も早く買収後の統合作業に入って行き、全体としての利益を上げたいはずなのです。
今回TOBが延期されたことにより、統合そのものが延期されました。その延期分の時間的ロス、それはシナジー実現が1ヶ月遅くなることを意味しますし、そのプロジェクトに関わっているリソースが更に拘束されることを意味します。その価格って、実は非常に大きいと思います。
すでに最初のTOB価格で840円というミスプライスをつけてしまったことで、いろんな代償を払ってます。リスクを最小化するためには840円という株価は明らかに失敗でした。ですので、本案件で日清紡経営陣は、そして、日本無線経営陣はもう2度と失敗をしないようにすべきだと思います。それは村上ファンドに屈するとか屈しないとかそういう小さなお話ではなくて、経営陣としてやるべき最低限のことだと思います。
880円という株価、確かに非常にうまい価格です。1株20円ぐらいであれば日本無線の株主は訴訟を起こさない可能性が高いですし、村上ファンドのTOBには労働組合が反対している、事業上のシナジーがないと主張し、合わせ技一本!を狙っているのも策としてはうまいです。ただ、リスク最小化できるのであれば、そちらを優先したほうがいいと思います。
その意味で、どうして、TOB価格を901円にしなかったのか、非常に残念です。合計での支払い価格は数億円の違いです。数億円、たしかに大きいです。しかし、リスクを最小化しないことの方が数億円よりも代償としては大きすぎる気がします。列車の脱線、マンションの倒壊も起こってからでは後悔できません。。。
そして、今回の件をもし
アドバイスしている証券会社があるのであれば、当初の840円という株価のときに、そして、今回の880円の株価に対しても、どうしてキチンとアドバイスしなかったのか、非常に不思議&残念です。プロとしての仕事をまっとうして欲しいと強く願います。
今回の日清紡・新日本無線の件が今後の株式市場、そして証券会社の健全化・発展につながれば、と強く思います。